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泉谷顕縦塾長の地頭力コラム

Japanese Math 「算数」で地頭を鍛える その6-①

塾長 泉谷顕縦

塾長 泉谷顕縦

2021/06/11 公開

2021/09/29 update

 

 

 「Singapore Math」の秘密を探るシリーズ第3回目は、シンガポールの小学校で重要視される「数学的プロセス」能力育成と「バーモデル」にスポットを当てます。

「数学的プロセス」

 シンガポールの小学校における数学の学習内容は、「数と代数」(Number and Algebra)、「測定と幾何」(Measurement and Geometry)、「統計」(Statistics)の3 領域と、この3領域にまたがる「数学的プロセス」で構成されている。

 

 シンガポールの小学校における数学教育のねらいは以下の3 つである。

 

・日常で使うことや数学を学び続けるために数学の概念や技術を獲得すること。

問題解決のための数学的なプロセスを通して考えること、 推論すること、 コミュニケーション能力適用すること、メタ認知的な技術を発達させること。

自信を付けることや数学への興味の育成をすること。

 

 シンガポールの小学校では、「数学的プロセス(Mathematical Processes)」能力の育成が重視されており、

①推論、コミュニケーション、関連付け(Reasoning, Communication and Connections) 

②応用(Applications) 

③思考力と発見的問題解決学習(Thinking skills and Heuristics)

の3 つにカテゴライズされている。

「バーモデル」

 ③の「思考力と発見的問題解決学習」の具体的な指標の一例として「バーモデル」の使用を明記しており、この「バーモデル」はシンガポール数学の大きな柱となっている。

 シンガポールの小学校では、「バーモデル」を使用して文章問題を解く練習に力を入れており、シンガポールの小学生は「バーモデル」をかくための専用の定規を持っている。
「バーモデル」は、日本でいう「テープ図」と殆ど同じもので、全体と部分の数量の関係を表したり数量の違いを表したりするだけでなく、分数や割合や百分率の問題解決にも活用されている。

さらに、知っている数値だけでなく、わかっていない数値も図の中に表すことができ、小学校の数学の範囲だけでなく中学校の代数での文字式の立式を考える時にも効果があることから、問題解決の重要な教材として、また、小学校と中学校の数学の橋渡しとなる重要な指導方法としてその指導に力が入れられている。

「Singapore Math」の教え方

 「Singapore Math」の統一された教え方のスタンダードは、

①問題文の文章にアンダーラインを引き、情報を「部分」と「全体」、「分からない値」に整理する。

②①で整理した情報を元にして「バーモデル」をかく。

③立式して答えを出す。

と、スモールステップで進められる。

 

 このように、シンガポールでは、「バーモデル」を使用した文章問題の解き方が細かく決められていることで、教員が変わっても、例え転校しても、児童はこれまで習って来た通りの方法で文章問題を解くことができる。

 

また、シンガポールでは、小学校教育の数年間、「バーモデル」を使用した解き方を徹底して反復練習させているので、「バーモデル」を使用した文章問題の解法の定着がはかりやすい。

 

 「ヒューリスティック」と呼ばれる算数的問題解決学習の時間を毎週1時間とっている小学校がある。「ヒューリスティック」の時間では、学校オリジナルの問題集を使用しており、中身はほぼ、「バーモデル」を使った文章問題である。他の算数の時間は他の単元の内容を勉強していても、週1回同時並行でこうした文章問題に取り組むことで、どのようなタイプの問題の時に、「バーモデル」を使用すると解きやすいのか、そういったことも児童は自然と体得していくことができる。

シンガポールの子供たちは文章問題を解く際に、問題の中に「1unit」にあたる数値があるかどうかを探し、「バーモデル」を使用して解くことができる可能性をまず考えることを習慣化している。この徹底した文章問題を解く訓練の効果がシンガポールのTIMSS2015、PISA2015 共に国際順位第一位の好成績にも反映されている。

 

 文章問題の内容を棒状の図に落とし込んでから解く解法で、日本では方程式で解くような問題もこのモデルを使うと解くことができる。日本では「バーモデル」という名前で知られるが、シンガポールのシラバスには「Polya’s model」と記述されている。

日本とシンガポールの図の扱い方の違い

 日本の教科書にも「バーモデル」とほぼ同じテープ図や線分図は、文章問題の解決のためのモデルとして、低学年から高学年まで系統だって使われている。日本とシンガポールの文章問題の捉え方、文章問題を解く際に使用する図の扱いについて、日本とシンガポールの図の扱い方の違いについて、二点挙げられる。

 

 一点目は、シンガポールが、図を文章問題解決のための手続きとして指導し、だれもが最も効率的な方法で答えを求めることを重視しているのに対し、日本は、図を具体的な場面を算数の見方でとらえ考えるための道具として身につけ、問題解決のストラテジーとして、また自分の考えの根拠として表現したりできるようにすることを重視していることである。 

 

 二点目は、日本では、高学年に進むと線分図と数直線図の両方を活用し、特に小数や分数の乗除計算の指導や割合や百分率の指導では、数直線図、または、二重数直線(Double number line)の活用へと図の抽象化が進み、答えを出すための図ではなく、演算を決定する時の思考の道具として発展していくように指導され、シンガポールでは、一般的に「バーモデル」が引き続き活用される点である。

 

 幅広い問題に対応できるという利点がある「バーモデル」だが、欠点として「かきづらさ」が挙げられると思われる。分数を視覚的に表すために、「バーモデル」をかく際はテープを正確に等分することが重要になる。日本では方眼紙のノートを使うためテープ図をかくのも簡単だが、白い紙ワークシート文化のシンガポールではバーモデル専用の定規が必需品になるのも頷ける。「バーモデル」では、高い文章読解力が必要となり、この「バーモデル」をかくことができる能力があるのであれば、もはや、「バーモデル」をかかなくても立式して答えまで求めることができる。

 

 日本の教科書は、問題の内容に応じて数量関係を表象する最適な図として、線分図やテープ図、二重数直線図等、異なった図を提示しているが、どんな問題の時にどういう図を使って表すと、情報を整理しやすいのかということの指導が不足していることが課題である。

基本的に単元ごとにワークテストがあるだけなので、児童が「今の単元はいつも二重数直線が出てくるから二重数直線を使えばよい」という数学的根拠に欠けた判断をしているのか、「異なって変化する2 つの数量関係を表すには二重数直線を使うとよい」という判断を下しているのか、教員は評価できない。

 

 学習塾に通っていない児童の中で、問題に応じて適切な図を選んで作図するだけの能力を十分につける児童の割合は、高くない。現在、シンガポールでは効率的に答えを求めることに重点をおくシンガポールのやり方を課題として捉える教育者が多く、シンガポールの数学も日本のような問題解決型学習へと進展して行くだろうという指摘もある。

 

 しかし、「分かる」「できる」ことが児童の学習意欲や学びの喜びに繋がるため、徹底的にスタンダードの「解き方」を教えることで問題を解く楽しさや達成感を多くの児童に味わわせることができる「Singapore Math」の良さも無視できない。 

 

 

(Japanese Math 「算数」で地頭を鍛える その6-②に続く)

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塾長 泉谷顕縦

プラチナム学習会塾長。 21世紀に生きる子どものための幼児教育教室。 大阪を拠点に東京や全国に展開しています。

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